UAEの「ブランド・レジデンス」投資が急増

「ブランド・レジデンス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。フォーシーズンズ、リッツ・カールトン、ブルガリ、アルマーニなど、世界的に名を馳せるラグジュアリーホテルやファッションブランドが、その名を冠した住宅物件を開発・運営する不動産カテゴリーのことです。いま、この「ブランド・レジデンス」市場がUAEで爆発的な成長を遂げています。2025年9月までの9ヶ月間で、ドバイのブランド・レジデンス取引件数は前年同期比26%増加、取引総額は500億ディルハム(約2兆円)近くに達しました。

なぜ今、世界中の富裕層がUAEのブランド・レジデンスに殺到しているのか。その背景には、単なる「ラグジュアリー志向」を超えた、戦略的な資産移動のメガトレンドが存在します。本記事では、CBRE、Knight Frank、Henleyなど複数の国際的調査機関のレポートをもとに、UAEブランド・レジデンス市場の実態と、日本人投資家が知るべきポイントを詳しく解説します。

5つ星ホテルに「住む」という選択

ブランド・レジデンスとは、世界的なホスピタリティブランドやラグジュアリーブランドと提携して開発される高級住宅のことです。購入者は、そのブランドが提供する5つ星レベルのサービスやアメニティを、自宅にいながら享受できます。コンシェルジュサービス、ハウスキーピング、24時間セキュリティ、スパやフィットネス施設へのアクセスなど、ホテルで得られる体験がそのまま日常生活に組み込まれるのです。

ブランド・レジデンスは大きく2つのカテゴリーに分類されます。ひとつは「ホスピタリティ・ブランド型」で、フォーシーズンズ、リッツ・カールトン、セントレジス、アマン、マンダリンオリエンタルといったラグジュアリーホテルチェーンが運営するものです。もうひとつは「非ホスピタリティ・ブランド型」で、アルマーニ、ブルガリ、ポルシェ、ランボルギーニ、メルセデス・ベンツなど、ファッションや自動車ブランドが名を冠したものです。近年では後者のカテゴリーが急速に拡大しており、2025年の新規供給では非ホスピタリティ・ブランドが全体の35〜40%を占めるまでになっています。

このセグメントが投資家に支持される最大の理由は「プレミアム価格」にあります。ドバイでは、ブランド・レジデンスは同エリアの非ブランド物件と比較して平均64%のプレミアム(価格上乗せ)が付いています。アブダビではさらに顕著で、平均87%のプレミアムを記録しています。つまり、ブランドの価値がそのまま資産価値に反映され、転売時にも高い価格を維持できる傾向があるのです。

数字が語るUAEブランド・レジデンス市場の爆発的成長

CBREの2025年UAE Branded Residences Reportによると、UAEのブランド・レジデンス市場は記録的な成長を遂げています。以下のデータは、この市場の規模感を明確に示しています。

指標 ドバイ(2025年1〜9月) 前年同期比 特記事項
ブランド・レジデンス取引件数 7,700件超 +26% 過去最高水準
取引総額 約500億AED(約2兆円) +51% 急激な価値上昇
ブランド・プレミアム 64% グローバル平均を大幅に上回る
市場シェア(オフプラン取引) 5%(2019年は3%) 2030年に8%へ成長見込み

*1AED=約40円で換算

アブダビの成長はさらに爆発的です。2025年1〜9月のブランド・レジデンス取引件数は前年同期比126%増加しました。特にヴィラセグメントでは、ジェイコブ・アンド・カンパニー・ビーチ・リビング(Jacob & Co Beach Living)プロジェクトの発売が市場を牽引し、アパートメントセグメントでもWレジデンシズ(W Residences)の発売により118%の取引件数増加を記録しています。アブダビのブランド・レジデンス市場シェアは2019年の1%未満から2025年には約2%へ成長し、2029年には供給ベースで18%に達すると予測されています。

富裕層の「大移動」がUAEブランド・レジデンス市場を押し上げる

Image of Dubai Marina from a high view showing the boats, sea, and the city scape

Image of Dubai Marina from a high view showing the boats, sea, and the city scape

ブランド・レジデンス市場の急成長を理解するには、グローバルな「富の移動」を把握する必要があります。2025年は、世界で14万2,000人のミリオネア(純資産100万ドル以上の富裕層)が国を跨いで移住すると予測されており、これは近代史上最大規模の自発的な富の再配分です。そして、その最大の受け入れ先がUAEなのです。

Henley & PartnersのPrivate Wealth Migration Report 2025によると、UAEは2025年に約9,800人のミリオネアを純流入で受け入れ、世界第1位となる見込みです。これは2位のアメリカ(+7,500人)を大きく上回る数字です。UBSのGlobal Wealth Report 2025ではさらに強気な数字を示しており、2024年だけで1万3,000人の新規ミリオネアがUAEに流入したと推計しています。

国名 ミリオネア純流入数(2025年予測) 主な魅力
UAE +9,800人 ゼロ税制、ゴールデンビザ、ライフスタイル
アメリカ +7,500人 市場規模、EB-5ビザプログラム
イタリア +3,600人 ゴールデンビザ、文化遺産
スイス +3,000人 金融安定性、プライバシー
サウジアラビア +2,400人 ビジョン2030、ビジネス機会

この富裕層の流入が、ブランド・レジデンス需要を直接的に押し上げています。UBSは2025年のレポートで「EMILLI」という新しい概念を提唱しました。これは”Everyday Millionaire”(日常的なミリオネア)の略で、純資産100万〜500万ドルの富裕層を指します。世界で5,200万人以上存在するEMILLI層は、100兆ドル以上の資産を保有し、不動産を長期的安定と受動的投資の手段として重視する傾向があります。

ブランド・レジデンスは、このEMILLI層にとって理想的な投資対象です。平均価格700万ディルハム(約2億8,000万円)前後の2〜3ベッドルームユニットは、彼らの投資予算に合致し、かつグローバルブランドへの信頼、5つ星サービスへのアクセス、セキュリティ、そして転売時の流動性を同時に提供します。「ロック・アンド・リーブ(鍵をかけて離れる)」スタイルで、年に数回しか使用しなくても物件管理を心配する必要がない点も、国際的な投資家にとって魅力的です。

ドバイ・アブダビ・ラアス・アル=ハイマ、3都市の戦略的ポジショニング

UAEのブランド・レジデンス市場は、ドバイ、アブダビ、ラアス・アル=ハイマ(RAK)の3つの首長国でそれぞれ異なる特性を持って発展しています。投資家にとって、この違いを理解することは戦略的に重要です。

ドバイは、世界でも最も高いブランド・レジデンス集中度を誇る都市です。北米やヨーロッパの成熟市場を凌ぎ、プロジェクト数で世界トップクラスに位置しています。2025年時点で完成済みのブランド・レジデンスユニットは約1万8,500戸で、Business Bay、DIFC、Palm Jumeirah、Downtownといった成熟エリアに集中しています。

今後のパイプラインはさらに印象的です。2025年から2030年にかけて、110以上のプロジェクトで3万1,300戸以上の新規供給が予定されています。これはドバイの全新規住宅供給の約8%に相当します。供給の95%がアパートメントで、高密度なウォーターフロントや都心部での開発が中心です。ブランド別では、地元ホスピタリティブランドのアドレス・ホテルズ+リゾーツ(Address Hotels + Resorts)とヴィダ(VIDA)、続いてジュメイラ・グループ(Jumeirah Group)がトップ3を形成し、非ホスピタリティブランドではデ・グリソゴノ(de GRISOGONO)がダマック(DAMAC)との大規模パートナーシップにより上位に入っています。

注目すべきは、自動車ブランドとの提携物件が極めて高いプレミアムを実現している点です。メルセデス・ベンツ、ブガッティ、ランボルギーニなどの物件は、市場平均の2倍以上のプレミアムを記録しています。2025年12月には、ビンゲッティ・デベロップメント(Binghatti Developers)とメルセデス・ベンツが「メルセデス・ベンツ・プレイシズ – ビンゲッティ・シティ」を発表しました。1,000万平方フィート(約93万平方メートル)以上の敷地に複数のブランド・タワーを建設する、世界初の「ブランド・シティ」構想です。

アブダビのブランド・レジデンス市場は、ドバイとは対照的に「希少性」を武器にしています。供給が限られているがゆえに、ブランド・プレミアムは平均87%と極めて高水準です。この数字がドバイの64%を大きく上回る理由は、アブダビではアル・リーム・アイランド(AlReem Island)やマリヤ・アイランド(Maryah Island)といったマスタープラン地区の一般物件のクオリティが相対的に低く、新規ブランド・プロジェクトとの差が際立つためです。

現在、アブダビの完成済みブランド・ユニットは約650戸に過ぎませんが、2025年から2030年にかけて2,700戸以上が20以上のプロジェクトで供給される予定です。供給はサディヤット島、ヤス島、アル・マリヤ島といったラグジュアリー・アイランドに集中しています。特にサディヤット島は「文化地区」としての開発が進み、ルーヴル・アブダビに続いてグッゲンハイム・アブダビ(2025年開館予定)が建設中で、文化的価値と不動産価値の相乗効果が期待されています。

2025年5月のディズニー・テーマパーク・リゾート開発発表は、アブダビ市場に大きなインパクトを与えました。発表直後からヤス島周辺の問い合わせが40%以上増加し、投資家のセンチメントを大きく押し上げています。今後供給されるブランドとして、フォーシーズンズ、ウォルドーフ・アストリア、モンドリアン、ジェイコブ・アンド・カンパニー、ブラバス、ブルガリなど、ホスピタリティと非ホスピタリティの両方から注目ブランドが名を連ねています。

UAEの7つの首長国の中で最も北に位置するラアス・アル=ハイマは、ブランド・レジデンス市場の「新興フロンティア」として急浮上しています。2023年以前はブランド・レジデンス市場がほぼ存在しなかったRAKが、今や最も成長著しい市場の一つとなりました。その触媒となったのが、ウィン・アル・マルジャン・アイランド(Wynn Al Marjan Island)の開発発表です。

米国の大手カジノリゾート運営会社ウィン(Wynn)がアル・マルジャン島にリゾートを建設するという発表は、RAKの市場ポジションを「バリュー志向の参入点」から「ラグジュアリー・デスティネーション」へと一変させました。モンドリアン・アル・マルジャン・ビーチ・レジデンシズ(Mondrian Al Marjan Beach Residences)の発売では、200ユニットがわずか数時間で完売し、7億400万ディルハム(約281億円)を売り上げるという驚異的な結果を残しています。

RAKのブランド・レジデンス供給パイプラインは急拡大しており、2030年までに約9,000ユニットがアル・マルジャン島、アル・ハムラ、ミナ・アル・アラブ、ビーチ・ディストリクトに供給される予定です。2030年には新規供給の54%をブランド・レジデンスが占めると予測されており、これはドバイやアブダビを大きく上回る集中度です。非ホスピタリティ・ブランド(アルマーニ、エリー・サーブ、ランボルギーニ、ハードロックなど)の比率も2030年には64%に達する見込みです。

ホテルから自動車、ファッション、スポーツへ広がるブランドの多様化

2025年のブランド・レジデンス市場で最も顕著なトレンドの一つが、ブランドの多様化です。従来このセグメントを支配していたホテルブランドのシェアは依然として高いものの、非ホスピタリティ・ブランドの参入が加速しています。

グローバルでは、2025年だけで58の新ブランドがブランド・レジデンス市場に参入しました。うち39がホテルブランド、19が非ホテルブランドです。注目すべき新規参入ブランドとして、ムアワド(Mouawad、ジュエリー)、マンソリー(Mansory、自動車チューニング)、ヘンゲ(Henge、イタリア高級家具)、メゾン・マルジェラ(Maison Margiela、ファッション)、ブラバス(Brabus、高性能自動車)、チェルシーFC(Chelsea FC、サッカークラブ)、ボッテガ・ゴールド(Bottega Gold、スパークリングワイン)などが挙げられます。

ブランドカテゴリー 代表的ブランド例 特徴
ホスピタリティ フォーシーズンズ、リッツ・カールトン、セントレジス、アマン サービス重視、運営ノウハウ
ファッション・ジュエリー アルマーニ、エリー・サーブ、ブルガリ、ムアワド デザイン美学、ライフスタイル訴求
自動車 メルセデス・ベンツ、ブガッティ、ランボルギーニ、ポルシェ 超高プレミアム、コレクター志向
デザイン・家具 YOO by スタルク、ピニンファリーナ、ヘンゲ 建築・インテリア融合
エンターテイメント・スポーツ ハードロック、チェルシーFC ファンコミュニティ、体験価値

もう一つの重要なトレンドは「スタンドアロン型」ブランド・レジデンスの増加です。従来、ブランド・レジデンスはホテルに隣接または併設される形で開発されてきましたが、2025年はホテルを併設しない「住宅のみ」のプロジェクトが主流化しています。デベロッパーにとって、ホテル運営の複雑さとコストを避けつつブランド価値を活用できるメリットがあり、特に欧州の都市部など敷地が限られる場所での開発が容易になっています。

日本人投資家のためのブランド・レジデンス投資 実践ガイド

Image of Skyscrapers in Abu Dhabi, United Arab Emirates

Image of Skyscrapers in Abu Dhabi, United Arab Emirates

UAEのブランド・レジデンス投資を検討する日本人投資家にとって、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。

投資のメリットとしては、第一に資産価値の安定性が挙げられます。ブランドの信用力が物件価値を下支えし、市場変動時にも価格が維持されやすい傾向があります。第二に、転売の流動性です。ブランド物件は国際的な認知度があるため、二次市場での買い手を見つけやすく、流動性が高いです。第三に、運営の手離れの良さです。5つ星レベルの管理サービスが付帯するため、遠隔地からでも物件管理の心配がありません。第四に、ゴールデンビザ取得への道です。200万ディルハム以上の物件購入で10年間のUAEゴールデンビザ取得資格を得られます。

一方で、リスクも認識しておく必要があります。まず、オフプラン物件の完成遅延リスクです。UAE不動産市場でもオフプラン物件の遅延は珍しくなく、1〜2年の遅れが発生する可能性があります。次に、サービスフィーの高さです。ブランド・レジデンスでは通常の物件よりも高いサービスチャージが課されるため、保有コストを事前に精査する必要があります。また、賃貸利回りの相対的な低さも考慮すべきです。ブランド・プレミアムにより購入価格が高いため、賃貸利回り(イールド)は非ブランド物件より低くなる傾向があります。ただし、キャピタルゲイン(売却益)とのバランスで判断すべきでしょう。

実際にUAEブランド・レジデンスへの投資を進める場合の基本的なステップは以下の通りです。

  1. 市場調査とブランド選定:ホスピタリティ vs 非ホスピタリティ、エリア(ドバイ/アブダビ/RAK)、価格帯を検討
  2. デベロッパーのデューデリジェンス:過去の納期実績、財務健全性、ブランドとの契約関係を確認
  3. 現地視察とエージェント選定:信頼できるライセンス取得済みエージェントとの関係構築
  4. 購入契約と支払いプラン:オフプランの場合、典型的には頭金20%、建設中40%、完成時40%の分割
  5. ゴールデンビザ申請(該当する場合):200万AED以上の物件購入で10年ビザ申請可能
  6. 物件引渡しと管理体制確立:ブランド運営会社との管理契約内容を精査

2026年以降の市場展望

グローバル・ブランド・レジデンス市場は、2025年に完成・運営中のプロジェクトが900件以上、パイプラインは950件以上に達しました。2015年時点では完成プロジェクトが約320件だったことを考えると、10年で3倍近い成長を遂げたことになります。

UAEはこのグローバル成長の中心地であり続けるでしょう。ドバイ、アブダビ、RAKの3市場合わせて、2030年までに4万戸以上のブランド・レジデンスが供給される見込みです。特に注目すべき動向として、以下の点が挙げられます。

第一に、「ブランド・コミュニティ」の出現です。単体の建物ではなく、複数のブランドが集まる統合的なコミュニティ開発が始まっています。ミラ・デベロップメンツ(Mira Developments)が発表したミラ・コーラルベイ(Mira Coral Bay)は、RAKの海岸沿いに14のグローバルブランドを集結させた「世界初のラグジュアリー・ウォーターフロント・コミュニティ」です。

第二に、ウェルネスブランドの参入です。心身の健康を重視するトレンドを反映し、シャー・ウェルネス(SHA Wellness、スペイン発のウェルネスリゾートブランド)などがブランド・レジデンス市場に参入しています。アブダビのイムカンによるシャー・レジデンス・エミレーツはその代表例です。

第三に、価格帯の拡大です。従来は超富裕層向けが中心だったブランド・レジデンスですが、「プレミアム・エコノミー」や「ミッドスケール」セグメントへの拡大が始まっています。これにより、より広い投資家層がブランド・レジデンス市場にアクセスできるようになりつつあります。

情報格差を超えて、グローバルな資産形成へ

UAEのブランド・レジデンス市場は、単なる「高級不動産」の話ではありません。グローバルな富の移動、資産の国際分散、ライフスタイル投資という複合的なメガトレンドの交差点に位置する、戦略的な投資機会です。

2025年、UAEは世界最多のミリオネア純流入を記録し、ブランド・レジデンス取引は過去最高を更新しました。ドバイの64%プレミアム、アブダビの87%プレミアム、RAKの爆発的成長。これらの数字は、このセグメントが単なるバブルではなく、構造的な需要に支えられていることを示唆しています。


引用元・参考文献

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