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「我々の目標は、一時30%まで高まった海外投資の割合を18から20%まで引き下げることです」。2024年10月29日、サウジアラビアの政府系ファンドPIF、正式名称パブリック・インベストメント・ファンドのルマイヤン総裁はそう言い切りました。原油安で石油収入が細るなか、資金の矛先は海外から自国内へと転じています。その受け皿として最も大きいのが住宅です。持ち家率を2030年までに70%へ引き上げる。この目標を掲げ、PIF傘下のROSHN Groupが国内各地で新しい街づくりを進めています。日本経済新聞によれば、PIFが運用する資金の規模はおよそ140兆円に達します。石油に頼らない経済への転換を掲げるビジョン2030のなかで、自国民の住まいはいま最前線の投資先になっています。

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ルマイヤン総裁が示した「海外投資の割合を18から20%まで引き下げる」という数字は、裏を返せば国内投資の比率を80%超まで高めるという宣言でもあります。かつて一時30%まで膨らんでいた海外投資の割合を、大きく圧縮する計画です。
背景にあるのは原油安です。改革資金の元手となってきた石油収入が減少するなか、サウジアラビアは石油に頼らない体制を目指す国内の経済改革を加速させるため、投資先の選択を見直しています。日本経済新聞はこの動きを、産業育成でインフラとAIを重点分野に据える転換と伝えています。原油価格の変動に左右されない経済基盤をつくる。その課題に、政府系ファンドという最大の武器が向き合い始めました。
住宅はその産業育成の中心に位置します。ROSHN Groupの説明では、同社の開発事業はサウジアラビアの持ち家率を7割まで引き上げるという2030年の国家目標に沿ったものです。石油マネーを海外で運用してリターンを得る発想から、国内で新しい産業と雇用を生み出す発想へ。PIFの投資哲学そのものが転換点を迎えています。海外資産を手放すという話ではなく、新規投資の優先順位が変わったということです。
海外から国内へ。この一言に、サウジ経済の次の10年が凝縮されています。
PIFの子会社であるROSHN Groupは、サウジアラビア全土で統合的な住宅コミュニティを開発しています。公式の説明によれば、同社が目指すのは単なる住宅供給ではなく、緑地空間や近代的なインフラを備えた持続可能な居住地域の形成です。生活の質を高め、人と周囲の環境とのつながりを強めることを掲げています。
代表的なプロジェクトがSEDRAコミュニティとWAREFAコミュニティです。住宅にとどまらず、学校や医療施設、モスク、物流拠点までを一体的に整備する複合開発として設計されています。ROSHNのポートフォリオには、オフィスやホテルといった商業施設も含まれます。
事業は住まいの提供だけで終わりません。小売分野への拡大として、買い物と娯楽の拠点となる「Roshn Front」の開発が進んでいます。スポーツ分野でも存在感を示しており、リヤドに「Roshn Stadium」、アル・コバールに「Aramco Stadium」を建設中です。両スタジアムは、2034年のFIFAワールドカップの試合会場になる予定です。
ROSHNが掲げる目標は幅広い分野に及びます。複合開発を手がけるデベロッパーとして世界で最も多様な企業のひとつになること、資産の所有と管理でリーダーの地位を確立すること、そして環境や社会、企業統治の分野で地域のリーダーシップを握ること。住宅の枠を超えた事業展開が、この構想の広がりを裏づけています。

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サウジアラビアの不動産市場全体に目を移すと、成長の輪郭がはっきりしてきます。IMARC Groupの分析では、市場規模は2025年に772億ドル、2034年には1416億ドルに達すると予測されています。2026年から2034年の年平均成長率は6.7%です。
| 時期 | サウジ不動産市場の規模 |
|---|---|
| 2025年 | 772億ドル |
| 2034年(予測) | 1416億ドル |
| 年平均成長率(2026〜2034年) | 6.7% |
この成長を牽引するのが、量から質への転換です。アーサー・D・リトルのパートナー、サリー・メナッサ氏は、量主導の住宅供給からライフスタイル主導の体験型開発への明確なシフトが起きていると指摘します。同氏によれば、ライフスタイルに特化したセグメントは今後5年間で年間およそ8%の成長が見込まれます。消費者の期待の変化や人口の増加、所得の増加、公共投資の規模がその原動力です。
同様の見方は他の市場分析にも見られます。サウジの不動産市場は2030年までの年平均成長率がおよそ7から8%になると予測されており、需要はアメニティ主導の複合施設や、環境に配慮した住宅によって牽引されているとされます。
PwC中東リヤドのイマド・シャロウリ氏の言葉はさらに踏み込んでいます。「サウジアラビアは、住みやすさと人間的な体験を都市計画の基盤に据えることで、ライフスタイルを主導する開発が需要と投資の牽引役としてますます影響力を増す市場を形成しています」。キング・サルマン・パーク周辺の複合地区、紅海沿いのブランド・レジデンス、ディルイーヤやアル・バラドといった歴史地区の再生。住宅はもはや箱を供給する事業ではなく、場所そのものをつくる事業になっています。
ビジョン2030が始動した2016年から2024年までの間に、サウジアラビアはインフラに4.9兆SR、ドル換算でおよそ1.3兆ドル相当を投じてきました。この投資は住宅、商業、ホスピタリティの供給能力を大きく押し上げています。掲げられている目標は、100万戸を超える住宅の導入、そして小売スペースとオフィススペースをそれぞれ700万平方メートル拡大することです。
マーサーのインド・中東・アフリカ担当社長、タレク・ロトフィ氏は、こうした政策改革が住宅取得率の向上や居住性の改善、外国投資の誘致という幅広い取り組みと合致し、セクター全体を加速させてきたと評価します。所有権規制の緩和と経済特区の創設が、その具体的な手段でした。
アーサー・D・リトル・ミドル・イーストのサリー・メナッサ氏は、改革の中身をより詳しく説明しています。外国人所有権の規制緩和、不動産取引の透明性の強化、グリーンビルディングへのインセンティブ、スマートシティ開発のための国家的な枠組みづくり。不動産取引登録簿の設立も、不正のリスクを減らし投資家の信頼を高める一歩になりました。
急ピッチの開発は、副作用も生んでいます。ロトフィ氏は、開発のスピードが建設やスマートシティインフラで働く熟練労働者の争奪戦を激しくしていると指摘します。人材の確保と育成は、2025年以降も業界の課題であり続けます。

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住宅需要の実態を数字で示したのが、Knight FrankがYouGovと共同で実施した「Saudi Report 2025」です。サウジアラビア駐在員100人を含む1037世帯を調査した結果、サウジ国民から26億2000万SR、駐在員から1億3370万SR、合計27億5000万SRの潜在的な民間資本が王国の巨大プロジェクトに投入される準備が整っていることがわかりました。
| 投資家層 | ギガプロジェクトへの潜在的投資額 |
|---|---|
| サウジアラビア国民 | 26億2000万SR |
| 駐在員 | 1億3370万SR |
| 合計 | 27億5000万SR |
最も人気の投資先はNEOMです。月収8万SR以上の回答者の41%が、NEOM内の住宅に2000万SR以上を費やす意向を示しました。ただし、その人気には陰りも見えます。ナイト・フランクのパートナーでMENAリサーチ責任者のファイサル・ドゥラニ氏によれば、NEOMを住みたい場所として選ぶ回答者の割合は2023年の84%から2025年には16%まで落ち込んでいます。他のギガプロジェクトの台頭、即入居可能な住宅の不足、価格への懐疑。理由は一つに絞れません。
所得層によって好みも分かれます。月収5万SRを超える層ではジェッダ・セントラルの人気が高く、14%を占めてNEOMに次ぐ2位につけました。ザ・ラインは「大衆向けプロジェクト」という認識が広がり、所得が上がるほど住みたいという意向は先細りになっています。月収7万から8万SRの層では、レッドシープロジェクトとキング・サルマン・パークでの住宅購入を望む割合が最も高くなりました。
外国人駐在員の反応は対照的です。月収3万SRを超える層はNEOMを最も好ましい場所として支持する一方、調査対象となった駐在員全体の20%はどのギガプロジェクトにも居住用不動産を購入する意欲を示しませんでした。ナイト・フランク・サウジアラビアのジェネラル・マネージャー、スーザン・アマウィ氏は、提供内容の分かりにくさや所有権規則の複雑さ、資金調達の難しさをその理由に挙げています。

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住宅への投資を可能にしているのは、PIF自体の急成長です。2021年1月、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子はPIFの会長として、今後5年間の戦略「ビジョン実現プログラム2」を発表しました。「我々の目標は、わが国を新しい人類文明の先駆者にすることだ」。皇太子はそう語りました。
当時PIFの責任者を務めていたヤシル・アルルマヤン氏は、この計画の中核を、生活の質の向上と環境や経済の持続可能性の促進、そして新しい経済分野と雇用の開発による新たな人間の未来への投資と説明しました。PIFはこの5年間で毎年400億ドルの投資を約束し、非石油分野のGDPに3200億ドルを貢献させ、2025年末までに180万人の雇用を生み出すという目標も掲げました。
地域経済学の専門家ナセル・サイディ氏は、この発表について「サウジアラビアの経済、社会を徹底的に変革し、多様化するための計画を前に進めるという決意の真剣さを疑うことはもはやできない」と評しました。
| 時期 | PIFの運用資産規模 |
|---|---|
| 2021年1月時点 | 約4000億ドル |
| VRP2発表時の5年後目標 | 1兆700億ドル |
| 2030年目標 | 2兆ドル |
| 2024年時点 | 約140兆円 |
資産規模の拡大ペースも際立ちます。2021年時点でPIFは過去4年間で資産を3倍の4000億ドル近くに増やしており、5年後には1兆700億ドルへ、2030年には2兆ドルという目標に近づく計画でした。中国やノルウェーの政府系ファンドに並ぶ存在へと、PIFは歩みを進めています。
NEOM、紅海プロジェクト、キディヤのテーマパーク。雇用創出の担い手として期待されるメガプロジェクトの多くが、この資金力の上に成り立っています。住宅という自国民の暮らしに直結する分野にも、資金の重心が移りつつあります。

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海外投資の比率を引き下げ、国内、なかでも住宅に資金を振り向ける。PIFが選んだこの方針は、単なる不動産開発ではなく、石油に頼らない経済という国家目標そのものの実験場です。ROSHN Groupが手がけるSEDRAやWAREFAのようなコミュニティは、持ち家率7割という数値目標を実現する土台になっています。
一方で、NEOMの人気低下が示すように、国民の期待とギガプロジェクトの現実の間にはまだ距離があります。所得層によって選ぶ街も分かれ、外国人駐在員の2割は投資に踏み切っていません。140兆円規模まで膨らんだPIFの資金が、この距離をどこまで縮められるか。サウジアラビアの住宅政策は、まだ実証の途中にあります。