
2025年、UAEの観光産業が歴史的な転換点を迎えています。世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の最新データによると、UAEへの国際旅行者による消費額は過去最高の2285億AED(約9兆円)に達する見込みです。これは2019年のピークを37%上回る数字であり、コロナ禍からの完全復活どころか、さらなる成長ステージへ突入したことを示しています。
観光セクターの経済効果は約700億ドル(約10兆5000億円)に上り、UAE経済全体の約14%を占めるまでに成長しました。2025年1月から9月までの9ヶ月間で、ホテル宿泊客数は約2300万人を記録し、前年同期比で約5%増加しています。この記録的な成長の背景には、UAEが掲げる「Tourism Strategy 2031」の着実な実行と、ドバイ・アブダビ両首長国の戦略的な投資があります。
UAEのホテル産業は、世界でもトップクラスの稼働率を維持しています。2025年の平均客室稼働率は79%から80%という驚異的な数字を記録しており、これは世界の主要都市と比較しても際立って高い水準です。特にドバイでは2025年上半期(1月〜6月)の平均稼働率が80.6%に達し、前年同期の78.7%からさらに上昇しました。
| 指標 | 2024年 | 2025年 | 増減率 |
| 国際旅行者消費額 | 2173億AED(約8.7兆円) | 2285億AED(約9兆円) | +5.2% |
| 観光セクターGDP貢献額 | 2573億AED(約10.3兆円) | 2675億AED(約10.7兆円) | +4.0% |
| 観光関連雇用者数 | 89.8万人 | 92.5万人 | +3.0% |
| ホテル平均稼働率 | 約78% | 約79-80% | +1-2pt |
| 国内旅行者消費額 | 576億AED(約2.3兆円) | 600億AED(約2.4兆円) | +4.2% |
WTTCのジュリア・シンプソンCEOは「UAEは世界の観光産業をリードし続けています。最先端のスマートシティから、卓越したホスピタリティ、シームレスなビザシステムまで、戦略的ビジョンが経済成長を牽引する模範例です」と述べています。この評価は、UAEが単なる観光地ではなく、観光産業のイノベーションを先導する存在であることを示しています。

AI Generated Image of the bustling interior of the Dubai Mall, showing luxury store facades and various men walking through the main atrium.
ドバイは2025年上半期に988万人の国際宿泊客を迎え、前年同期比6%増を記録しました。この数字はドバイを「世界で最も訪問される都市」の座に近づけており、同市が掲げる2025年目標の達成に向けて順調に推移しています。ドバイ経済観光局(DET)の発表によると、地域別では西ヨーロッパが最大の送客市場で全体の22%を占め、続いてGCC・MENA地域が26%(GCC 15%、MENA 11%)、CIS・東欧が15%、南アジアが15%となっています。
ドバイのホテル産業は収益面でも顕著な成長を見せています。2025年上半期の平均客室単価(ADR)は584AED(約23,400円)で前年比5%増、RevPAR(販売可能客室1室あたり収益)は471AED(約18,800円)で前年比7%増となりました。宿泊客の平均滞在日数は3.71泊を維持しており、短期滞在の観光客だけでなく、長期滞在のビジネス客や富裕層旅行者も増加していることがうかがえます。
| ドバイ ホテル指標 | 2024年H1 | 2025年H1 | 変化 |
| 国際宿泊客数 | 932万人 | 988万人 | +6% |
| 客室稼働率 | 78.7% | 80.6% | +1.9pt |
| 平均客室単価(ADR) | 556AED(約22,200円) | 584AED(約23,400円) | +5% |
| RevPAR | 439AED(約17,600円) | 471AED(約18,800円) | +7% |
| 販売客室数 | 2135万室泊 | 2224万室泊 | +4% |
| 総客室数 | 14.8万室 | 15.2万室 | +2.7% |
ドバイ皇太子兼首相代理のシェイク・ハムダン・ビン・モハメド・アル・マクトゥーム殿下は「ドバイは国際観光客数で新記録を樹立し続けています。これは、世界的なビジネスと観光の拠点となるという首長国の戦略的ビジョンを反映するものです」と述べています。
UAEの観光産業は、数字だけでなく国際的な認証や評価においても高い実績を残しています。2025年上半期だけでも、ドバイは複数の権威ある認証とアワードを獲得しました。最も注目すべきは、ドバイが東半球で初の「認定自閉症対応デスティネーション(Certified Autism Destination)」の認証を取得したことです。これは、ドバイがあらゆる旅行者に対してインクルーシブな体験を提供する姿勢を国際的に認められた証です。
また、トリップアドバイザーの「2025年トラベラーズチョイスアワード」では、ドバイは引き続き「ベスト・オブ・ザ・ベスト」に選出されました。旅行保険会社インシュアマイトリップの調査では、ドバイは62都市中「女性の一人旅に最も適した都市」として世界1位にランクインしています。「安心感」と「夜間の一人歩きの安全性」の両カテゴリーで最高スコアを記録しました。
これらの評価は、UAEが観光客数を追い求めるだけでなく、観光体験の質と多様性に投資していることを示しています。日本からの旅行者にとっても、安全性と快適性が保証された目的地としてUAEの魅力は高まっています。

AI Generated Image of a sunset desert safari in Dubai, featuring a camel caravan ridden by men and several 4×4 vehicles parked on the dunes.
アブダビも著しい成長を遂げています。2025年第1四半期だけで140万人の宿泊客を迎え、ホテル収益は23億AED(約920億円)を記録し、前年同期比18%増となりました。RevPARは484AED(約19,400円)で25%の急増を見せ、客室稼働率も79%を維持しています。アブダビの観光セクターは2025年に620億AED(約2.5兆円)の経済貢献が見込まれており、前年比13%増の成長率です。
アブダビは「Tourism Strategy 2030」を掲げ、10億ドル(約1500億円)規模の投資を通じて観光産業の拡大を進めています。この戦略は4つの柱で構成されています。
2024年には国際宿泊客が前年比28%増の320万人に達しており、2030年までにこれを720万人に倍増させる計画です。この成長は、UAEにおける観光関連投資の機会が首都アブダビにも大きく広がっていることを示唆しています。
UAEの観光成長を支える重要なインフラが、エミレーツ航空、エティハド航空、フライドバイの航空3社です。これらの航空会社は積極的な路線拡大と増便により、世界中からの旅行者をUAEに送り込んでいます。
エミレーツ航空は、ボーイング777やエアバスA380の追加導入により輸送力を強化し、ニューヨーク、ロンドン、シドニー、香港など世界の主要都市への直行便を維持・拡大しています。エティハド航空も欧州・アジアの主要都市への新規直行便を開設し、特にプレミアムキャビンクラスの導入でハイエンドなビジネス・レジャー客の獲得を狙っています。フライドバイは中東、欧州、アジア各地への路線網を拡大し、予算を抑えたい旅行者に手頃な選択肢を提供しています。
この3社体制は、富裕層からバジェット旅行者まで幅広い層をカバーし、UAE観光の成長エンジンとして機能しています。UAEが「世界で最もコネクテッドな都市」としての地位を確立できた背景には、この航空インフラの充実があります。日本からもエミレーツ航空とエティハド航空が直行便を運航しており、成田・羽田・関空からのアクセスが確保されています。観光客だけでなく、ビジネス渡航者にとってもUAEは東西を結ぶハブとして機能しており、これが観光とビジネスの両輪で成長を加速させる要因となっています。
UAEは世界のラグジュアリー観光市場でも独自のポジションを確立しています。ドバイのアトランティス・ザ・パーム、ブルジュ・アル・アラブに代表される最高級ホテルは、世界中の富裕層を惹きつけ続けています。2025年上半期には、ジュメイラ・マルサ・アル・アラブ、シュバル・メゾン(エキスポシティ)、ビルトモア・ホテル・ヴィラズ(アル・バルシャ)、ヴィダ・ドバイモール(ダウンタウン)など新規ホテルが開業しました。
さらに今後、マンダリン・オリエンタル・ダウンタウン、ズッハ・アイランド(ザ・ワールド・アイランズ)、そして世界最高層の純ホテルタワーとなるシエル・ドバイ・マリーナ(ヴィニェット・コレクション)の開業が予定されています。
ガストロノミー(美食)観光も成長分野です。2025年5月に発表された「ミシュランガイド・ドバイ」第4版では、35種類の料理を提供する119店舗がリストに掲載されました。特筆すべきは、FZNとトレジンド・スタジオがドバイ初の三つ星レストランに選出されたことです。トレジンド・スタジオは世界初のインド料理三つ星レストランとなり、ドバイの美食シーンの多様性と高水準を世界に示しました。
MICE(会議、報奨旅行、会議、展示会)市場も堅調です。ドバイ・ビジネス・イベンツ(DBE)は2025年上半期に249件の国際会議誘致に成功し、今後数年間で12万7000人以上の参加者がドバイを訪れる見込みです。国際会議協会(ICCA)のランキングでは、ドバイは中東で最も多くの国際会議を開催した都市として1位を維持しています。
観光産業の成長は、UAEの経済全体に大きな波及効果をもたらしています。WTTCのデータによると、観光セクターは2025年に92万5000人以上の雇用を支え、これはUAE国内の約8人に1人の雇用に相当します。この数字は航空会社やホテルだけでなく、小売、飲食、交通、不動産など幅広いセクターに広がっています。
| 関連セクター | 観光からの恩恵 | 代表企業・施設 |
| 不動産・開発 | ホテル開発、商業施設への投資拡大 | エマール、アルダー |
| 小売・ショッピング | 観光客の消費による売上増加 | ドバイモール、モール・オブ・ジ・エミレーツ |
| 航空・交通 | 旅客需要の増加、路線拡大 | エミレーツ、エティハド、フライドバイ |
| 飲食・エンタメ | レストラン、アトラクションへの来客増 | ミシュラン掲載店、テーマパーク |
| 金融・保険 | 観光関連投資、旅行保険需要 | 各種金融機関 |
特に不動産セクターへの影響は顕著です。エマールやアルダーといった大手デベロッパーは、観光客の増加による商業施設やホテル開発への投資拡大で恩恵を受けています。ドバイモールは年間1億人以上の来場者を記録しており、その多くが国際観光客です。観光客の消費は、モールテナントの売上を押し上げ、賃料収入の安定につながっています。
また、UAEの観光成長はGCC(湾岸協力会議)地域全体にも好影響を与えています。UAEをハブとして近隣国を周遊する旅行者が増加しており、オマーン、バーレーン、カタールなどへの観光需要も連動して拡大しています。ローランド・ベルガーのレポートによると、GCC全体の観光セクターは2024年に3419億ドル(約51兆円)のGDP貢献を記録し、730万人の雇用を支えました。2025年にはGDP貢献が3673億ドル(約55兆円)に達し、雇用も770万人に拡大する見込みです。
UAEの成功は、観光を戦略的に経済多角化の柱として位置づけることの有効性を示しています。石油依存からの脱却を目指す湾岸諸国にとって、UAEの観光モデルは一つのベンチマークとなっており、サウジアラビアの「ビジョン2030」やカタールの観光戦略にも影響を与えています。

AI Generated Image of the interior of the Louvre Abu Dhabi, showing men walking beneath the intricate geometric dome and along the water channels.
WTTCの予測によると、UAEの観光セクターは2035年までに2878億AED(約11.5兆円)の経済貢献が見込まれており、これはGDPの10.4%に相当します。観光関連雇用は100万人を超え、国の経済多角化と持続的成長の中核を担う産業として定着する見通しです。
| 指標 | 2025年 | 2031年目標 | 2035年予測 |
| GDP貢献額 | 2675億AED | 4520億AED | 2878億AED |
| 雇用者数 | 92.5万人 | − | 100万人超 |
| 宿泊客数(年間) | 約3000万人 | 4000万人 | − |
| ホテル客室数 | 約20万室 | 30万室 | − |
「Tourism Strategy 2031」の下で、UAEは2031年までに観光セクターからの経済貢献を4520億AED(約18兆円、約1230億ドル)に引き上げる計画です。この野心的な目標を支えるのは、スマートシティ開発、世界水準のインフラ、サステナビリティへの取り組み、そしてシームレスな観光客体験の提供です。
UAEの観光産業は2025年に歴史的な成長を遂げています。9ヶ月で2300万人という宿泊客数、700億ドル(約7兆円)のGDP貢献、79〜80%という世界トップクラスのホテル稼働率は、この国が世界の観光産業において確固たる地位を築いたことを証明しています。
ドバイとアブダビの両首長国が推進する戦略的投資、エミレーツ・エティハド・フライドバイによる航空ネットワークの拡充、そしてラグジュアリーからバジェットまでカバーする多様な宿泊施設は、UAEをあらゆるタイプの旅行者にとって魅力的な目的地にしています。
日本企業にとって、UAEの観光市場は大きな成長ポテンシャルを秘めた投資・ビジネス機会の宝庫です。不動産投資と異なり、飲食やサービス業など比較的少額から参入できる分野も多く存在します。中東進出の第一歩として、あるいは既存の中東事業の拡大先として、UAE観光市場は検討に値する選択肢と言えるでしょう。
※為替レート:1AED = 40円、1USD = 150円で計算