サウジの消費のかたちを変え始めた女性起業家たちの静かな台頭

ジェッダ市内の自動車クイックサービス工場で、ガダ・アフメドさんが車のエンジンを掃除しています。2022年5月に撮影されたこの一枚は、サウジアラビアでいま起きている変化をそのまま映し出しました。かつて女性の姿がほとんどなかった業種に、女性が入り始めています。労働力に占める女性の割合は2016年の約23%から、現在は34%を超える水準まで伸びました。10年に満たない期間でこれだけの数字が動いた例は、この地域ではまれです。中小企業に目を移すと、その45%はすでに女性の手で所有されています。規制の見直しと社会の受け止め方の変化が同時に進んだ結果、モノを買う側だった女性たちが、売る側、作る側へと踏み出し始めました。この動きは労働市場の統計だけにとどまりません。サウジアラビアの消費のかたちそのものを、根っこから塗り替えつつあります。

AI Generated Image of an aerial top-down view of Jeddah's dense sand-colored cityscape meeting the turquoise Red Sea coastline in crisp morning light

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数字が語る参加率の上昇

サウジアラビア統計局、GASTATは2024年12月31日、2024年第3四半期の労働市場統計を公表しました。サウジ人女性の労働参加率は36.2%に達しています。前の四半期から0.8ポイントの上昇です。就業人口に対する比率も31.3%まで伸び、こちらは0.5ポイントの上昇でした。四半期ごとの統計としては、決して小さな動きではありません。

年齢別に見ると、変化の輪郭がより鮮明になります。15歳から24歳の若い女性の労働参加率は18.0%で、1.0ポイントの上昇。就業率も13.6%まで伸び、0.6ポイントの上昇となりました。同世代の男性の労働参加率は34.6%、1.1ポイント増です。男女差はまだ大きい。しかし女性側の伸び幅は、男性にまったく引けを取りません。

区分 労働参加率 就業率
サウジ人女性(全体) 36.2% 31.3%
サウジ人男性(全体) 66.9% 63.7%
サウジ人女性(15〜24歳) 18.0% 13.6%

サウジ人全体では、労働参加率が51.5%(0.7ポイント増)、就業率は47.4%(0.2ポイント増)でした。25歳から54歳の中核世代に絞ると、労働参加率は69.4%(0.7ポイント増)、就業率は64.8%(0.3ポイント増)まで上がっています。全体の失業率は7.8%で、前の四半期からは0.7ポイント上がったものの、前年の同じ時期と比べると1.0ポイント下がりました。

ARAB NEWSが報じた数字も、同じ方向を指し示しています。専門家らが同メディアに語ったところでは、女性の労働力参加率は2016年の約23%から現在は34%以上に急増し、中小企業の45%を女性が所有するに至っているといいます。統計の取り方によって数字には幅がありますが、10年に満たない期間でこれほどの動きが起きた例は、この地域では稀です。四半期ごとに積み重なる0.5から1.0ポイントの上昇こそ小さく見えます。しかし数年単位で見れば、労働市場の中身を変えるだけの力を持ちます。

AI Generated Image of an extreme macro close-up of a geometric perforated limestone mashrabiya screen on a modern Riyadh shopping mall facade, hard midday sun casting deep black graphic shadows across the pale stone surface

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モールが作った女性の居場所

アジア経済研究所の辻上奈美江氏による研究によると、2000年代に入ってサウジアラビアの消費環境は大きく変わりました。リヤド中心部にファイサリーヤ・モールやキングダム・センターといった大型の高級ショッピングモールが相次いで開設されたのです。これらのモールの多くは、女性向けアパレル専門店とレストラン、カフェを中心とした店舗構成でした。

モールは、それまで外出の機会が限られていた女性たちにとって、外食や買い物を楽しむ場所になりました。投資家ワリード・ビン・タラール王子が手がけたキングダム・センターには、最上階に女性専用フロア「レディース・キングダム」が設けられました。ここにはアバヤを着けずに入店できるカフェが複数オープンし、試着室を備えた洋服店や下着店も現れています。それまで一般のアパレル店では男性店員が接客していたため、試着室の設置自体が認められていませんでした。

ファイサリーヤ・モールでは、違う形の工夫が取られました。単独の男性や男性のみのグループの入館を禁止する「ファミリー」専用の時間帯が設けられたのです。当時のリヤドのレストランは「シングル」と「ファミリー」という区分で分けられており、ガラス張りで店内が見える「シングル」部門は主に単独の男性客が使う場所でした。モールという空間の設計が、女性の外出のハードルを一段ずつ下げていったのです。

サウジアラビアの女性の服装をめぐる決まりも、この時期を境に緩やかになっていきました。ジェトロが2020年にまとめた消費行動調査では、色やデザインが多様なアバヤ、たとえばジャンプスーツ風のものやエクササイズ用のアバヤが人気を集めていると報告されています。服装の選択肢が増えたこと自体、女性が外に出て消費する機会の広がりを映しています。

AI Generated Image of an empty modern shopping mall arcade corridor in Saudi Arabia viewed at ground level, soft diffused daylight casting warm rose-gold light across polished marble floors and glowing shop-window glass

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石油以前の女性商人たちの記憶

サウジアラビアの女性とビジネスの関係は、近年になって突然生まれたものではありません。辻上氏の論文が引用するアル=バーディの研究によると、石油が発見される以前の社会には、物売りをする女性たちの姿が記録されています。街では貧しい女性たちが、卵や鶏、ハーブやスパイス、衣服を売り歩いていました。多くの市場には「女性専用市場」が設けられ、女性はそこで売買を行っていたといいます。

遊牧民の女性たちも生産の担い手でした。自家用、あるいは市場で売るためのテントや絨毯を織っていたのです。遊牧民は男女ともに街の市に出かけ、手作りの品物を売って得たお金で必要なものを買っていました。女性が家の外で稼ぐことは、かつてこの土地でありふれた光景だったのです。

ところが石油の富が流入し、近代化が進む過程で、必要とされる労働力の中心はサウジ人女性ではなく外国人労働者に置き換わっていきます。遊牧や農耕の暮らしを離れて都市に移った女性の多くは、生産の現場を離れて家庭にとどまるようになりました。近代化は、皮肉にも女性を経済活動の中心から遠ざける方向に働いたのです。

とはいえ、女性がすべての経済活動から遠ざかったわけではありません。サウード家の商業活動を調べたサブリの分析(2001年)によると、王族の女性だけでなく一般の女性も積極的に投資を行ってきました。女性がビジネスに参加する場合、卸売や小売のような事業を直接営むのではなく、不動産や商業市場への投資という形を取るのが一般的でした。女性が会社を経営する際は、代理人を立て、その代理人を通じて最終的な決定権を行使するケースが多かったとされています。

男性の王族メンバーによる投資や経営の規模は、人数でも金額でも女性を大きく上回っていました。それでも女性の王族メンバーによる投資は、無視できない規模だったことが記録に残っています。女性はビジネスの世界から不在だったのではなく、表舞台に立つ役回りを担ってこなかっただけです。

AI Generated Image of a historic Najdi mud-brick citadel wall in Diriyah illuminated by warm amber floodlights against a deep indigo blue-hour sky

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変わる財布の中身

ジェトロが2020年に発表したサウジアラビアの消費行動調査は、女性の就業機会の広がりが消費市場に与えた影響を具体的に描いています。女性の所得が上向いたことで、衣類や靴、美容関連の商品、コスメ、スポーツウェア、ハンドバッグやジュエリーといった小物への支出が増えていると報告されているのです。

同じ調査では、可処分所得の減少や予算の引き締めが進む中でも、価格に見合った価値を求める消費者が増えている実態が示されています。サウジの消費者はブランド志向が強い一方で、新しいブランドの高品質な製品を試したい気持ちも併せ持っているといいます。

産業別の支出構成を見ると、2018年時点で食品とノンアルコール飲料が20.6%と最大のシェアを占めていました。次いで日用品とサービスが8.5%、雑貨とサービスが8.3%、ホテルとケータリングが6.1%、衣類と靴・履き物が5.6%、レジャーとレクリエーションが2.7%と続きます。

産業分野 消費支出シェア(2018年)
食品とノンアルコール飲料 20.6%
日用品とサービス 8.5%
雑貨とサービス 8.3%
ホテルとケータリング 6.1%
衣類と靴・履き物 5.6%
レジャーとレクリエーション 2.7%

eコマースの広がりも見逃せません。同調査によれば、モバイル小売業は2014年から2018年にかけて年平均で25.7%の成長を記録し、インターネット小売業に占めるモバイル小売業の比率は17.0%から42.5%まで拡大しました。人口の大部分を占める18歳から44歳の層が、この支出の大部分を担っています。健康への意識の高まりも、食品やレジャーの購入基準に影響を与え始めているといいます。

女性の所得が上向いたことと、消費が広がったこと。この二つは単純な一方通行の関係ではありません。働く女性が増えれば、女性が主な買い手となる商品カテゴリーの市場が育ちます。市場が育てば、そこに関わる仕事も増える。この循環が、ここ数年のサウジアラビアの消費の現場で起き続けています。

AI Generated Image of a telephoto-compressed view of a Khobar retail street at night, silhouetted delivery scooters in the foreground and teal-cyan neon shopfront lights reflected on rain-wet pavement

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政策が押し出す起業の波

ARAB NEWSの取材に対し、PwC中東で教育とスキルの分野を担当し、中東地域のインクルージョンとダイバーシティのリーダーを務めるバスマ・ブシュナク氏は、サウジアラビアの女性をめぐる変化についてこう語りました。「ビジョン2030の下でのサウジアラビアにおける女性の変革を特徴づける要素の一つは、社会改革、経済多角化、民間部門の成長が並行して進んでいること、つまり、それぞれが孤立してではなく、共に前進している点だ」。

ブシュナク氏はさらに、規制の見直しが果たした役割にも触れています。「規制改革は、女性にとって好ましい環境を構築する上で極めて重要でした。移動の自由、労働力への参加、経済的機会へのアクセスに関連する変化により、歴史的に女性の参加を制限してきた構造的な障壁が取り除かれたのです」。この変化により、テクノロジーや起業、金融サービス、観光、中小企業のエコシステムといった分野への女性の参入が進んだといいます。

アーサー・D・リトルのパートナーであるサリー・メナッサ氏も、規制の見直しと国主導の取り組み、制度面の支えが重なったことを指摘しました。「サウジアラビアが特に興味深いのは、政策改革と並行して社会的受容がどれほど急速に進み、こうした取り組みが実際の経済参加へと結びついたかという点です」。

具体的なプログラムも動いています。TASCアウトソーシングでサウジアラビア担当の最高事業責任者を務めるアニル・シン氏によると、中小企業を支える機関「モンシャアット」や人材開発基金(HRDF)、いくつものスタートアップ支援プログラムが、資金の提供や研修、インキュベーションを通じて女性が起業しやすい環境を整えてきたといいます。

一方、業界関係者からは、変化の本質を制度よりも文化の側に見る声も聞かれます。政策やプログラム以上に、最大の変化は文化的なものだったという見方です。今日では、ビジネス、イノベーション、経済成長に対して女性がもたらす価値が、以前よりはるかに強く認識されているといいます。

専門人材という壁

ここまで見てきた通り、労働参加率の上昇や中小企業の所有割合の広がりは着実に進んでいます。しかしこの動きが順風満帆だとは言い切れません。

ジェトロが2021年にまとめたレポートのタイトルには「サウジアラビア人女性の労働参加が進展するも専門人材不足が課題に」とあります。労働参加率という数字の裏側で、専門性を持つ人材の確保がなお課題として残っている実態がうかがえます。

世界銀行が2026年3月に発表したディスカッションペーパーは、中東・北アフリカ地域全体の女性労働参加の傾向とサウジアラビアの経験を扱いました。同地域は世界的に見ても女性の労働参加率が低い水準にとどまってきた地域です。その中でサウジアラビアの上昇ペースは、地域の傾向からは外れています。

数字の伸びと、その中身の質は、必ずしも同じ速さで進みません。労働参加率が上がっても、それがどの職種、どの専門性の中で起きているのかによって、経済への影響の大きさは変わってきます。GASTATの四半期統計が示す0.8ポイントという上昇幅も、内訳まで踏み込んで見なければ、変化の実態はつかみきれないでしょう。

辻上氏は、女性が財閥の代表を務める例がごく少数ながら存在し、中小規模のビジネスを始める女性に注目が集まっている背景を論じています。歴史的に女性が後継者と見なされてこなかった構造そのものが、いま静かに崩れ始めているのです。とはいえ、構造が崩れる速さと、そこに新しい担い手が育つ速さは別の話です。専門性を持つ人材の不足という課題は、女性起業家が事業を軌道に乗せ、さらに大きくしていく段階で表面化しやすい問題だと考えられます。

ジェッダの工場で車のエンジンを掃除するガダ・アフメドさんの姿から、リヤドのモールに設けられた女性専用フロア、そして石油発見以前の女性商人たちの記憶まで。サウジアラビアの女性と経済の関係は、一直線には語れません。労働参加率36.2%という数字、そして中小企業の45%を女性が所有するという事実は、この国の消費と労働の両方を、女性がこれまでとは違う位置から動かし始めていることを示しています。モンシャアットやHRDFといった制度が土台を整え、社会の受け止め方も変わってきました。専門人材の不足という課題が残る中で、この動きがどこまで広がり、どんな職種にまで根を張っていくのか。サウジアラビアの消費の現場は、その答えをまだ書き終えていません。

参考資料・データ出典

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